ぶらり兵庫春物語

兵庫県南東部に位置する伊丹市は、
大阪国際空港を擁し、古くは旧西国街道が通る旅人の町でもあります。
また、清酒発祥の地でもあり、江戸時代には72軒もの酒屋が軒を並べていたという
伊丹の歴史をのぞいてみます。

 東に大阪国際空港(伊丹空港)、西に六甲山系をあおぎ、猪名川・武庫川の2つの川に挾まれた伊丹。
なだらかな丘陵地帯であり、大阪市から約10qという好アクセスの立地から、近代に入りベッドタウンとして栄え、人口は19万人を超える都市です。
  旧西国街道(京都・東寺を起点に中国・九州地方を結ぶ)が通っていた伊丹は、古くから交通の要衝で
あり、多くの旅人が訪れる宿場町でもありました。奈良時代、名僧行基は、困った旅人たちを助ける
昆陽施院を建てますが、これが後に寺院としての形態を整え、昆陽寺(創建731年)となったそうです。
昆陽寺創建後、行基は周囲のかんがい用の池や用水路などの社会事業にも着手します。
当時の昆陽一帯は田畑が広がる田園地帯でしたが、大雨の度に洪水による被害に見舞われていたそうです。行基は自分が学んだ中国伝来の土木技術を駆使し、専門の技術者とともに5つの用水池と用水路を
造りました。行基が造った池の中で、最大のものが昆陽池と伝えられています。
  現在、昆陽寺の境内には、四国霊場八十八ケ所のミニコースが設けられているほか、県指定文化財である朱塗りの山門や観音堂など、見どころもたくさん。
また、毎年4月初旬には行基の徳をしのぶ「行基さん祭り」も開催されます。

  伊丹の氏神・猪名野(いなの)神社。
素盞鳴(すさのお)神を祀る神社で、
境内には酒造家・商人から寄進された97基の石灯籠が並ぶ。
境内にあるムクロジの巨木は市指定文化財。

 平安時代には、稲名川流域を中心に貴族などの荘園がたくさん作られていきます。
荘園の管理にあたっていた武士の中から、やがて伊丹氏が台頭し、現在のJR宝塚線「伊丹」駅西側に
伊丹城を築城。築年は定かではありませんが、伊丹城の名が歴史の舞台に初めて登場したのは、
南北朝時代の1353年だそうです。
  1574年に、織田信長が荒木村重を摂津の守護に任命し、伊丹城に入った村重は、名称を有岡城と
改め、城主の座に就きました。「惣構え」という史上初の築城法が用いられた有岡城の構造は、
城郭に城下町を取り込み、北・西・南に塚や砦を配し、堀と土塁をめぐらした防御帯で城を囲むといった、
まさに要塞ともいえる堅牢なものでした。ポルトガル人の宣教師、ルイス・フロイスがこの地を訪れ、
「甚だ壮大にして見事なる城」と書き記したことからも、城の威容さが想像できます。
その後、村重は信長への背信から城を攻められ、一人、尾道へと逃れ、信長の死後は秀吉の庇護のもと、茶人となったそうです。

1979年、国の史跡に指定された有岡城跡の史跡公園。
復元された石垣などが見られる。
 

 伊丹は鎌倉時代からつづく、酒造りの町でもあります。1600年頃に、鴻池村で澄んだ酒・清酒が偶然、
生み出されました。この辛口ですっきりした清酒は、甘口のにごり酒しか知らなかった江戸市民に歓迎され伊丹は一躍、酒処として有名になりました。
  酒造業によって繁栄した伊丹には、井原西鶴、松尾芭蕉、近松門左衛門など多くの文人墨客が訪れるようになり、この頃、伊丹に俳諧が生まれたようです。
なかでも、上島鬼貫(1661〜1738年)は「東の芭蕉、西の鬼貫」と称されるほど、俳諧の道を極めました。
  酒造りによる繁栄を機に花開いた伊丹の文化の足跡に触れられるのが「みやのまえ文化の郷」。
国・県の文化財に指定されている建造物や施設が一般公開される文化ゾーンです。
過去と現在を融合させた人気のスポットに、小西酒造の「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵」があります。
昔ながらの手法でしぼったオリジナルの日本酒や地ビールが味わえるレストランのほか、酒造りの歴史に関するミュージアムも公開されています。
  JR「伊丹」駅と直結するショッピングモール「ダイヤモンドシティテラス伊丹」など、大型の商業施設もあり町を歩くと脈々と受け継がれた歴史の遺産に触れられる伊丹は、知るほどに発見のある町といえそうです。

  「白雪ブルワリービレッジ長寿蔵」の2階にある「ブルワリーミュージアム」。
昔の酒造りの道具の展示や映像技術を駆使したマジカルシーンビジョンで
酒造りの歴史が見られる。
●旧岡田家住宅
江戸時代から酒造業を営んでいた「旧岡田家住宅」は
店舗部分が兵庫県内に現存する最古の町屋、
酒蔵は現存する最古のもので重要指定文化財。
伊丹の酒造業の歴史に関する展示を行っています。
●旧石橋家住宅
江戸後期の商家で、建築当初の店構えを残した
県指定の文化財。
金・土・日には1日50席限定の予約制弁当が
日本庭園を眺めながら楽しめます。
●柿衛文庫
伊丹の俳諧文化遺産の収集物約9500点を所蔵した日本3大俳諧コレクションの一つ。